『著作権判例百選[第5版]』保全異議申立事件ほか

いわゆる『著作権判例百選[第5版]』保全異議申立事件の決定文が公開(最高裁判所ウェブサイト)
東京地裁平成28年4月7日。本件は、2015年秋に報道され話題になりました(朝日新聞デジタル産経ニュース)。

決定文は長大で、本件の経緯にも興味深い点がありますが、とりいそぎ今回の論点と、裁判所の判断についてざっと整理してみました(決定文2p、38p以下)。【4/29追記しました】


(1) 債権者X氏(百選第4版の編者の1人である大学教授)は、編集著作物たる本件著作物(百選第4版)の著作者の一人であるといえるか?

→ 著作者の一人であるといえる(40p)。

【理由】 そもそも、4版の表紙では、「A・X・B・C編」という形で編者が表示されており、また「はしがき」の表示もあわせると、X氏は著作権法14条により、4版の著作者(編集著作者)と推定される。
 そして、X氏は、百選の執筆者について、特定の実務家1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択しており、最終的にも判例113件の選択・配列と、執筆者113名の割当てを、項目立ても含めて「確定」している等の事情があるため、Xは編集著作者の1人と評価できるのであって、上記の推定を覆す事情はない。


(2) 本件雑誌(第5版)の表現から、4版の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか?(5版が、4版を翻案した二次的著作物に当たり,4版の同一性保持権を侵害するものとなり得るか?)

→ 5版を創作する行為は、4版の翻案に該当し、5版は4版を原著作物とする二次的著作物に該当する。また、同一性保持権の侵害にも該当する(47p)。

【理由】 5版と4版を比べてみると、収録判例の選択は97件(5版の約84%)が一致し、執筆者の選択は93名(5版の約79%)が一致しているなどの事情がある。そのため、4版と5版とでは、判例と解説の選択及び配列が、全体として類似している。
 「百選」の執筆者の選択の幅は決して小さくない上、どの判例の解説執筆者として誰を選ぶかの選択の幅は極めて広いので、4版と5版とで表現上共通している部分には、創作性を有する表現部分が相当程度ある。したがって、5版の表現からは、4版の表現上の本質的特徴を直接感得できる。
 さらに、5版が4版に依拠されて編集されたことは明らかなので、以上によれば、5版は、4版を原著作物とする二次的著作物に該当する。


(3) 「4版は、「『著作権判例百選』(第4版)搭載判例リスト(案)」(本件原案)のとおりの原案を原著作物とする二次的著作物にすぎず、4版において新たに付加された創作的表現が5版において再製されてはいない」ということができるか?

→ できない(48p)

【理由】 本件原案は、まさしく原案にすぎないのであって、その後編者によって修正、確定等されることを当然に予定したものである。本件では、原案の段階で、独立の編集著作物が成立したとみるのは相当でなく、4版が完成した段階で、X氏を共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相当である。


(4) 5版のはしがきの表示をもって、著作権法19条1項後段の原著作物の著作者名の表示がされたとして,氏名表示権の侵害がないといえるか?

→ いえない(50p)。

【理由】 5版の「はしがき」では、来歴を記載した段落中に「第4版(A=X=B=C編)」という語句で出てくるのみであること等からすると、これをもって5版の原著作物の編集著作者名が表示されたものと解することはできない。


(5) 5版における4版の改変が、X氏の4版に係る同一性保持権を侵害するか?

→ 侵害する(51p)

【理由】判例の配列の仕方や、執筆者の選択の仕方について、X氏は「耐え難い」としているので、本件の改変は、X氏の「意に反し」(著作権法20条1項)たものといえる。また、本件の事実経過に照らすと、「やむを得ないと認められる改変」(法20条2項4号)ともいえない。


(6) X氏が、債務者(出版社)に対して、5版の出版に関して、黙示的に4版の利用を許諾し、著作者人格権を行使しない旨の同意をしたといえるか?

→ 黙示的な許諾ないし同意をしたとは、「一応にせよ認めることができない」(53p)


(7) X氏が、他の共同著作者との間で5版の出版に関する合意を拒むことについて,正当な理由(著作権法65条3項)がなく、信義に反する(法64条2項)ということができ、かつ、そのことが本件差止請求に対する抗弁となるか?

→ (そもそもこのような主張が抗弁になりうるという法的根拠は見あたらないが、)本件ではX氏が合意を拒むことには正当な理由がある。また、X氏が信義に反して合意を妨げているとはいえない(58p)


(8) X氏の、債務者(出版社)に対する本件差止請求権の行使が、権利の濫用に当たるか?

→ 「本件の事案については様々な見方があり得ようが」、本件差止請求権を行使することが権利の濫用に当たるということはできない(61p)


(9) 5版の出版前にその複製・頒布等を差し止めることが、「事前抑制の法理」の要件を満たさないとして許容されないことになるか?

→ 本事件では、「言論の内容(執筆者による個々の解説の内容)を公にすることについては何ら禁止するものではない」ため、いわゆる北方ジャーナル事件とは「事案の基本的な性格を全く異にする」。
 また、出版社の対処次第では、著作権法違反にならない形で個々の解説の内容を出版できることや、本件の経緯等をふまえると、出版社や、編者、執筆者の表現の自由を侵害することにはならない。
 そのため、差止めが「事前抑制の法理」の要件を満たさないとして許容されないことにはならない。(64p)



(10) 本件仮処分申立てについて、保全の必要性があるか?

→ 保全の必要性がある(67p)




アップル、著作権侵害でポップアート作家に訴えられる(wired.jp)
ポップアート作家のロメロ・ブリットが、マイアミの連邦地裁で訴え提起。アップルのキャンペーンサイトに掲載されている「Craig & Karl」の作品が、ブリットの作品を模倣・盗作していると主張。


ジョナサン・バーンブルック、デヴィッド・ボウイの『★(ブラックスター)』のアートワークをCCライセンスの下で公開(CreativeCommonsJapan )
記事中から引用:
>このアートワークを使ってどのような作品を作ってもらいたいと思いますか?
>答えはいたって簡単。デヴィッド・ボウイへの愛と感謝を表現してもらいたいです。



カフェでのBGMも有料 知らないと損する「著作権」(Economic News)



TPPと著作権法⑦-法定損害賠償-(小坂準記氏note)