著作権の裁判例(幼児の練習用箸事件)

■最近の著作権関連の裁判例を1件ご紹介(幼児の練習用箸事件)

東京地裁平成28年4月27日判決東京地裁民事第29部。裁判長:嶋末和秀)

【事案の概要】
この事件は、「エジソンのお箸」という幼児用の箸を製造販売している原告が、「デラックストレーニング箸」という幼児用の箸を製造販売している被告に対して、著作権法に基づく差止めや損害賠償を求めた事案です。

↓ 判決別紙から抜粋。原告の箸製品のうち、エジソンのお箸Ⅰ(ブルー)

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↓ 被告の箸製品のうち、デラックストレーニング箸(トミカイラスト付)

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結論として、原告の請求は棄却されました。
著作権法に関する争点は2点あります。



【論点1】原告の箸製品は「著作物」に該当するか?

裁判所の判断を短くまとめると、まず一般論として、

「実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは、その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく」、著作物に当たらないと述べました。

なお、昨年のTRIPP TRAPP事件知財高裁判決[平成27年4月14日]で示された解釈(応用美術の著作物性を判断する際に、一律に高い創作性の要件までは不要で、個別具体的に作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき)については、次のように述べて否定しています。

「原告は、実用に供される機能的な工業製品やそのデザインであっても、他の表現物と同様に、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性を肯認すべきである旨主張するけれども、著作権は原則として著作者の死後又は著作物の公表後50年という長期間にわたって存続すること(…)などをも考慮すると、…現行の法体系に照らし著作権法が想定していると解されるところを超えてまで保護の対象を広げるような解釈は相当でない」


そのうえで、原告の箸製品については、

① 幼児の練習用箸としての用途・機能を有する実用品として量産される工業製品である

② 指を挿入するためのリングの配置は,正しい箸の持ち方の手の形になるようにするという目的に適った位置及び向きであり、人体工学に基づいて設計されたものである

③ 箸本体を上部の円形部材等で連結させている部分は、1本1本の箸を固定して箸先の交差を防止する機能を果たすためのものである

原告の箸製品の②と③の点は、いずれも①の幼児の練習用箸としての実用的機能を実現するための形状ないし構造であるにすぎず、原告各製品には他に際立った形態的特徴はない。
よって、原告各製品は、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えておらず、「著作物」には当たらないと結論づけました。



【論点2】原告図画(下記デザイン画)に基づく著作権侵害はあるか?

↓ 判決別紙より抜粋。原告箸のデザイン画

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裁判所は、まず原告図画の著作物性については、

・箸製品を製作するための工業用のデザイン画の域を出ないものとして、「学術的な性質」を有する図面(著作権法10条1項6号)とはいえない。
・また、【1】で説示したところに照らせば、直ちに著作権法上の著作物に当たるともいい難い。
と判断しました。

さらに、原告図画を純粋に白黒のスケッチ画として見たとしても、3次元の被告各商品とは形状や色彩等において全く異なるし、仮に影の表現等の絵画的な特徴をもって創作性を認めたとしても、その特徴は被告各商品には現れていないので、被告各商品から原告図画の表現形式上の本質的特徴を感得することができない。

よって、被告各商品は、原告図画の複製にも翻案にも当たらないので、著作権侵害はないと結論づけました。